【本日のおすすめ】Jack Johnson / In Between Dreams (2005)
【本日のおすすめ】
Jack Johnson / In Between Dreams (2005)
バニラ・エッセンスの香り、ヴィーガン・クッキー、フェア・トレードのコーヒー。
ジャック・ジョンソンを聴いてこういう連想をするのは、彼がサーファーであること、あるいはシンプルで飾らない音楽性や熱心な環境活動から……というのもあるけど、やっぱりカフェ・ミュージックの定番だからなんだろう。
肩肘張らない緩いフォーク。無理はせずにどこまでも自然体に。リラクシンなサウンドは耳心地よくって、軽く聴き流すこともできる。世界中の数多くの店内で流れてきたし、今も流れているんじゃないかな。
2005年発売の本作「In Between Dreams」は彼のもっとも売れたアルバムの一つで、誰もがどこかで耳にしたことのある有名曲がいくつか収録されている。『Better Together』『Banana Pancakes』そしてもちろん『Good People』。タイムレスであると同時に、ゼロ年代の空気も含んでいて自分はちょっとノスタルジックになってしまう[注1]。まあでも、特に深く考えないでさっとかけられる、普段着とか朝のシリアルみたいなCDだ。
そんなジャック・ジョンソンの第一印象は・・・あまりも”ノーマル”。なのに代替を探そうとすると存外見つからない、稀有な音楽なのです。
ニール・ヤングやジェイムズ・テイラー、ウディ・ガスリーといったSSWに、そしてギャビー・パヒヌイのような生まれ育ったハワイの音楽から影響を受けていると彼自身は語っています。しかし、今挙げたSSWの持つ孤独な陰り…いわば”ひとり”のフィーリングは感じないし、ギャビーの天衣無縫ともまた違っている。父のジェフ・ジョンソンもまた腕を鳴らしたサーファーで、ジョンソン一家には多くのサーファー仲間が訪れていたそうだから、ひとりというよりコミュニティ=場の音楽というか、そんな雰囲気が反映されているのかも。それと、ジャック自身はとてもシャイな性格のようで、おおらかだけどギャビーほど全開にならないのも納得。
他にもレゲエやブルース(ハワイでは両ジャンルともハワイアンとの交配が行われてきた歴史がある)の影響もあったり、シンプルな音楽性の背後には思いのほか混合性が。いや、混合性があるのにこのシンプルネス、というべきか。あえて”漂白”という言葉を使ってもいいのだろう。波間を”漂”う無垢の”白”。それは<壁紙の音楽>[注2]と呼び得るもの。それはちょっとした幸福感、彩りを添えてくれる……。彼の誠実さが滲み出ているのでしょうね。
どこにでもあるようで、他にはない2000年代の名盤。
改めて聴いてみませんか。
(A.K.)
[注1]
個人的にはここ2、3年の間にある意味最もホットになったアーティストかも。というのも自分が音楽を意識して聴き始めたのが2008年くらいで、現行と後追いで色んな音楽に触れていったのだけれど、ゼロ年代初頭~中盤が完全にエアポケットになっていたんです。そういうわけで、今になってとっても関心を抱いているのがこの頃の音楽であり。その典型例として辿り着いたのがジャック・ジョンソンだったわけです。
彼の半生を追った書籍「ジャック・ジョンソン 終わりなき夢の波間に」の帯では、”LOHAS世代のポップスター”との形容が。LOHAS……SDGsになる前のあの頃を思い出す。ヴィレッジヴァンガードの全盛期、サード・ウェイヴ・コーヒー以前のオーガニック・カフェのブーム……。この耳心地が呼び起こす風景に見いだされるプルースト効果(ある世代にとってのKenny Gのように)。朴訥なフォークサウンドはタイムレスなようでいてしかし、確実にゼロ年代の質感というものを帯びている。
[注2]
vaporwaveによる価値の転倒。lo-fi hiphopが再提示してみせたYouTube時代のBGMの地平。NewJeansらK-POPにおける”イージーリスニング”というワードのリブート。そしてFrutiger Aeroの先へ。ポスト・インターネット以降の様々な美学が重層化した今、ジャック・ジョンソンの(ポジティヴなニュアンスでの)軽さ/薄さには新たな魅力が備わる気さえする。鎮静効果をもたらすポップ・ミュージックとして極めてMuzak的に現実世界の各ストアで実用されていたこと。その肌感覚の記憶がさらにメタ的なレイヤーとなり、アーティストの意図からは遠のいてアンビエント性を獲得するというヴァーチャリティ。アンビエントの概念の話になるとサティの<家具の音楽>は避けられないが、イーノの切り拓いた環境音楽とは別種のサウンドスケープとして捕捉し得るそれを、<壁紙の音楽>とごくごく個人的に呼んでいる。この壁紙というキーワードはTahiti 80の2ndアルバム「Wallpaper for The Soul」から着想を得たもので、Tahiti 80もジャック・ジョンソンも初期ノラ・ジョーンズも 羊毛とおはな…etc もこの概念のスコープで捉えられないだろうか、と考えたりするのがマイブームです。
