レコードの種類はいくつある?

DG

レコードショップで往年の名作を眺めていると、商品説明のラベルに書かれた「DG」の2文字を見ることがあります。
「Deep Groove」の略式で、直訳する深い溝という意味なのですが、この溝というのは再生面ではなく、ラベル面にあるものを指します。

……あれ、ラベル面に溝ってあったかしら?

そうです、多くのレコードのラベル面には溝はなく平らな状態です。
ただしそれは、おおよそ1960年代以降に製造されたものの話。
1950年代以前だと、目視で分かるはっきりとした溝の存在するものがしばしば見つかります。

実はこの溝、レコードをプレスするスタンパーによって発生したもの。
当時のスタンパーの仕様ではどうにも技術的に避けられず、ラベルにも跡が付いてしまったようなのです。

さて、このDG。あるとないとで何が違うのでしょうか。
端的に言いますと、「初期プレスである」「ので音が良い」、です。
(ただし後者については全ての作品に絶対に当てはまる訳ではありませんのでご留意ください。)

まず、少なくとも1950年代以前にプレスされている=初期プレスなのでオリジナルに近い、
もしくはオリジナルそのものである可能性が高い
です。

そして、後発のプレスになればなるほど音は悪くなっていく、というのが定説です。
というのも、後発のプレスではラッカー盤を制作するにあたって、
時間経過により劣化したマスターを用いることになるからです。
レコードと異なり、当時は磁気テープに記録されていたマスター音源は劣化の進行が速いもの。
つまり、オリジナル盤とは音質の鮮度が最も高い音源、
当時の音をパッケージした貴重な資料性があるコピーなのですね。

有名作品や人気作品はやはり幾度となくプレスされてます。
その中でもなるべく当時の音に近い初期プレスを見つけたい方にとっては、
(プレス当時にそんな意図はなかったはずですが)いかに古いプレスなのかを知る手がかりになるわけです。

FLAT

DGと同じように、商品説明のラベルに時折「FLAT」という表記があります。
これも略式で、正式には「FLAT EDGE」と呼ばれている盤の特徴を指します。

通常の盤は外周の縁=エッジ(EDGE)に、微妙に盛り上がりを持つようにデザインされています。
目視だとピンときませんが、指で縁をなぞったり摘まむと気付きやすいかも知れません。
イメージとしては、極端に言えばミミのあるハンドトス型のピザ生地が近いでしょうか。

この盛り上がりはグルーヴガードと呼ばれていて、
レコードを重ねたり、スリーブから取り出す時に溝が傷付きにくくするための設計と言われています。
(針が誤って盤外へ滑り落ちるのを防止するため等、他にも言説があり正確な理由は不明です。)

グルーヴガードが存在せず、外周部の縁の平らなものが所謂FLATです。

1950年代以前の初期のレコードで少なからず確認できる特徴なのですが……
と、ここまで書くと勘のいい方はお気付きでしょう。
そうです、製造販売された時期を判別する手がかりとなるわけです。
クラシック音楽のレコードでもFLATは多いですが、特に当時のジャズ(廃盤ジャズ)で目当てのコピーを探したい方は、一つの有効手段として活用している印象があります。

 

プロモ(見本盤)

レコードの世界で大きな部分を占めているものに、「PROMO(見本盤)」があります。
過去の国内盤レコードで探しているものを見つけたと思ったら、
「見本盤」と書かれた赤いシールがジャケットの上側に貼られていたというパターン。
一度は経験したことがあるのではないでしょうか。

これはPromotion Copy、すなわち販促目的でのみ使用可能なレコードのことで、
元々はラジオ局や音楽業界人にレコード会社が販売促進のために配布していたもの
「サンプル盤」「SAMPLE」と表記されていることがありますが同じ意味です。
つまるところ門外不出の(?)非売品なのですが、それらをどこかのタイミングで手放した人々がおり[注3]、
色々な場所を経て中古レコードショップやオンラインの売買プラットフォームへ流れ着いた、ということです。

なお、プロモ盤と通常の市販盤とを見分けられる特徴はいたって明快。
国内盤であれば先述のようにジャケットに赤い見本盤シールが(ジャケ右上)貼られていたり、白い見本品シールが(ジャケ裏に)貼られていたりするので一目瞭然です。
海外盤であればスタンプで「NOT FOR SALE」の文字が押されていることも。

また、レコードのラベル面にも”見本盤”や”非売品”との表記が印字されていることも多いのですが、
それに加えて違うのがラベルの色。
ごく簡素な白色のラベルで、文字などは黒インクで印字。
プロモ盤は市販用ではなく、かつ大多数のコピーをプレスすることもないので、
予算などの都合上このようなデザインになったのでしょう。
レコードショップの説明欄にある「プロモ盤/白ラベル」とはこのようなものを指します。

さて、ここに来て一つの疑問が。
プロモ盤と通常の市販盤、一体どのような価値の違いがあるのか?です。
ジャケットにシールが貼られているのはシンプルに何だか残念な気持ちにもなりますし、
プロモ盤の方が価値が劣るのではないか、と何となく考えるのも不思議ではありません。
がしかし、意外にもプロモ盤であることに高い価値が付く結果は往々にしてあるのです。

というのも、プロモ盤はこれから販売する音源を売り込むために作られた、
最初期段階のプレスのものだからです。

先程から度々触れていますが、オリジナル盤に近い初期プレスになればなるほど、
最初に意図されただろうサウンドの鳴りのする=音質の劣化していない盤に肉薄。
ゆえにオリジナル盤と同様の音質が期待できるプロモ盤は、
レコードコレクターにとって、あるいはオーディオファイルな人にとって優先順位は必然的に上昇。
ひいてはプロモであること自体に価値が見いだされるわけです。
時折、名作のプロモ盤にとんでもない高値が付いて面出しされているのはそういうことなのでした[注4]。



[注3]それにしても門外不出のプロモ盤が現在こんなに出回っているのは一体どういうことなでしょうか?
これは風のたよりに聞いた話ですが……
プロモ盤とは販促用のものなので、販促の時期が終わる、つまりレコードショップの店頭で使い終わるタイミングが必ず訪れます。
そうすると(法的に当時は規制が甘く、グレーゾーンだったのでしょうが)ショップが放出する形で手放していたようなのです。
完全に想像でしかありませんが、そこに金銭のやり取りはなく、無料配布のような形でお客さんへと盤が渡っていったのではないか、と。

[注4]プロモ盤で高値が付いている理由でもう一つ考えられるもの。
それは有名アーティストのプロモ盤です。
というのも、発売当時もうその時点で有名だったアーティストは改まって販促する必要がなく、
プロモ盤をレーベル側が制作する意味やメリットは薄いため、
万一存在してもごく少数で出回らないはず。
ゆえに稀少なアイテムとなるのではないか?ということです。