レコードの種類はいくつある?

LP


LPのサイズや特徴

LPとはロング・プレイ(long play)の略語で、その名の通り長い時間録音・再生可能なレコードです。

サイズでいうと円全体の直系は30cmで、インチ単位だと12インチ
回転数は33回転(正確には一分間に33と1/3周)です。
基本的にはアルバムのレコード=LPなので、アナログレコードと言って普通の人が思い浮かべるのがLPとも言えるでしょう。

ところで、SPからLPへの切り替わりを決定的に運命付けたものがあります。

それは素材。

SPで使用されていたのはシェラックですが、ポリ塩化ビニールが使用可能になるや状況は一変。
厚い上に割れやすいSP盤に比べて、この素材で製造されたLPは薄く強い。
そして何よりも、はるかに長い時間録音可能。

SP盤の録音可能時間は、大きい12inchサイズのものでさえ片面4~5分ほど。
対して、LPは片面30分。両面での開きは約50分に及びます。
それまでのスタンダードだったSPよりもロング・プレイ。ゆえにLPなのです。



ちなみにLP一枚の中でも音質が良い部分とそうでない部分があるのはご存じでしょうか。
実は外側の方が内側よりも音が良いといわれています。
まるでフルーツのスイートスポットような話ですが、これにはちゃんとした理由がありまして。

レコード一般についての特性ですが、
外周では高域がしっかりと出て音が良く、
内周に向かうにつれてダイナミクスは損なわれます


そもそも、回転速度は同じでも、針が進む速度は内外で差が出てしまうのは必然。
外側の長い距離、内側の短い距離。
どちらも同じタイムで走るのですから、外側の方が速度は圧倒的に速いです。
そう、長距離を使って刻んだ情報量を、余裕のない短距離に刻み込まなくてはならないわけです。

ちょっとだけ確認してみましょう。
上の盤面の溝の写真はオーディオ企業iZotopeの記事から引用したもので、
両方とも似たようなサウンドの音源が刻まれているのですが、左側が盤の外側、右側が盤の内側の溝。
比較してみるとやはり盤の内側の刻まれ方が細かいのが見て取れるかと思います。

そしてこのことは音質の優劣と同時に、カッティングの難易度に差があることも示しています。
いかに音質を損なわず内側にカッティングを施せるのか。
職人の腕の見せ所でもあるのですね。

余談ですが、派手なハイライトの曲がA面B面の冒頭に多く、
逆にバラードや静かな曲が後半に並べられる傾向が(特に邦楽で)見られます。
恐らくですが、この特性を念頭に置いて意図されたものなのでしょう。

また、時折同じタイトルが「LP1枚組」「45回転盤2枚組」といった2パターンで発売されることがありますが、これも前者が通常盤、後者が高音質盤なのだと理解することができます。

 

LPの種類は大きく分けて7種類ある

LPは主流であるがゆえに、様々なバリエーションが編み出されてきました。
大別して7種類が存在しますが、それぞれについて触れてみたいと思います。

東芝の赤盤

古い国内盤で東芝レーベルが出しているものの中身を確認してみると、
赤く半透明な(今でいうレッド・クリアに近い)レコードが少なくない頻度で出てきます。
これが通称「赤盤」です。
音楽好きの間では”赤盤は音が良い”と実しやかに噂されてきましたが、
果たして赤盤とはどのようなものなのでしょうか。

具体的には、
東芝音楽工業が50年代後半から70年代前半にかけて、
川口市に建設した工場でプレス製造していたもの
が赤盤のようです。

ホコリで汚れないエバークリーンな盤である、というのが当時の東芝の売り文句でした。
レコードの鑑賞のノイズになる一つの要因が静電気によるホコリの付着ですが、
その現象を防ぐべく塩化ビニールに帯電防止剤を添加する製造法を採用していました。

しかし、帯電防止剤を加える技は東芝の専売特許でなく、他社にも同様の盤が存在しますし、
黒い盤でも同様の処理が施されていたということなので、
帯電防止剤が混ざっているから赤いという訳でもないようです。

それでは一体なぜ赤透明色なのでしょうか。
所説ありますが結局のところ、
「ブランドイメージ戦略としてのカラーリング」
というのが有力そうです。

つまり、音を良くするために赤透明なのではなく、
高音質な盤を積極的に赤透明にデザインしたことで生まれた、
赤透明=高音質という固定観念によるもの、というのが実態なのでは?いうことでした。

ただし、「音が良い」というのはリスナーの受け取り次第ですので、
いくらビートルズ・ファンの間で「国内盤なら赤盤の音が良い」と語られがちだからといって、
それが絶対とは限らないことに気を付けた方が良いでしょう。

なお、赤盤が何故消えたのか?という疑問については、行方洋一・著『音職人・行方洋一の仕事』によると、
川口工場にいた一人の職人が材料を配合して作っていたので、
彼が70年代半ばで退職したことで実質生産不可能になってしまった、というのが事の顛末のようです。

 

カラーヴァイナル

通常の黒盤、ブラックヴァイナルに対して鮮やかな色彩のデザインの盤を
「カラー盤」または「カラーヴァイナル」と呼びます。
(半透明のものは「クリア盤」「クリアヴァイナル」。)

音楽配信サービスが主流の現在において、レコードを買う。
その行為における意味合いとして、「音楽を聴く」のと同じくらいかそれ以上に、
「アイテムとして持つ」という点が大きくなってきています。
そのため、プレイヤーは持っていないけど、レコードだけ持つ若者も少なくありません。

すると重要度が増すのはレコードの視覚的側面、砕けて言えば見た目です。

ブルー、イエロー、グリーン、ピンク、ホワイト、グレー、シルバー、…etc。
レコード=黒色の固定概念に囚われない鮮やかな色彩。
しかも時には2色使いもアリで。
すると次には2つの色をどう盤上に配置するかというデザインの話に発展。
波打たせた大理石文様の「マーブル盤」、ペンキが跳ねたような「スプラッタ盤」(上の写真)、etc。

近年では同じタイトルを発売する際、複数のカラーバリエーションが展開されるのが平常運転となってきました。
この流れは新譜に限らない話で、かつて黒盤のみだった往年の名作も、
”今この時代に再発する意味を見出すなら…”
と、敢えてカラーヴァイナルでプレスされることもしばしば。
去年のビートルズ赤盤&青盤のリマスター再発も例外ではありませんでした。

 

……ところで、多くの方が頭に浮かぶ疑問があるのではないしょうか。

Q. カラーヴァイナルの音質は通常の黒盤よりも悪いのか?

すばりこれです。
お目当てのレコードが両方のパターンで発売されたら黒盤の方を選ぶ、
という音楽好きの意見もよく耳にしますが、果たして判定やいかに。

結論から先に申し上げます。

A. 音質が悪いとは一概に言えないが、音質の特性は確実に違う

です。

そもそも、通常のレコードが黒いのはある程度の比率でカーボンが混ぜられているから。
これは塩化ビニール(それ自体は透明です)の強度と硬度を上げるためなのですが、
この二つのパラメータが上がると、高域周波数帯の再現性がリズミカルになり、
かつ低域がタイトになる傾向があるようなのです。

一方カラーヴァイナルはというと、混ぜられているのはカーボンではなく顔料。
塩化ビニールの強度と硬度はその分黒盤よりも低く、柔らかい状態です。
この状態では逆に、低域には伸びが出て、高域はマイルドな印象になるようです。

つまり、黒盤には黒盤の、カラーヴァイナルにはカラーヴァイナルの素材による特性があり、
その一長一短は鑑賞者の好みによって、あるいは録音された音源の傾向によって決まると言えるでしょう。

 

ピクチャー盤

イラストレーションやアートワークなどが印刷されたレコード。
これをピクチャー盤と呼びます。

例えば人気アニメの関連作品や、ジャケットのアートワークを有名作家が手掛けていたり。
そうしたヴィジュアル面に高い価値があると、ピクチャー盤として発売されるケースが散見されます。

カラーヴァイナルの一種?
そう捉えられそうな気になりますが、実はかなり異なります。
なぜならピクチャー盤とは、
アートワークの印刷された紙が、透明な塩化ビニールでサンドイッチされてプレスされたもの
だからなのです。

ある意味ではクリアヴァイナルと言えそうですが、
中に紙があるということは物体の振動にまつわる特性も変わってくるでしょうから、
別物と捉えて差し支えありませんし、実際、音の鮮明さは劣ると言われています

なお、これは経験則なのですが「ビニヤケしているものが多い」のもピクチャー盤あるあるです。
ビニヤケとは塩化ビニール焼けの意で、盤面が白く曇り艶が失われたコンディションを指します。
見た目が悪くなるだけでなく、場合によっては本来の音質も損なわれる、避けるべきもの。

ではピクチャー盤でビニヤケが多い理由とは何か。
それは透明なプラスチック製のジャケットに入れられていることが多いから、です。
見せてなんぼのピクチャー盤。
魅力を最大に引き出すための仕様と言えますが、このジャケットこそが曲者。
PVC(ポリ塩化ビニール)スリーヴと呼ばれるもので、一定以上の温度の場所に保管しているとガスを発生。
このガスがレコードの盤面と化学反応を起こし、ビニヤケ状態にしてしまうのですね。

観賞用のアイテムとしてだけでなく、ちゃんと聴いて楽しみたい方は購入前に試聴するのが吉でしょう。

 

重量盤

レコードはターンテーブルに乗せて回転させます。
盤は歪んでおらず、回転はムラが出ず、針はしっかりと音を拾う……。
こうした前提のもとレコードとその周りのシステムは作られていますが、それはあくまで理想形。
現実では多かれ少なかれ誤差が生じるものです。

翻っては、その誤差を最小限に留めることが、音質を損なわずに再生する秘訣とも言える訳ですが、
この考え方に則って製造されているのが重量盤と呼ばれるレコードです。

通常のLP=12inchの重さがおおよそ140gほどなのに対して、重量盤は180g以上
より多くの素材から製造されるので、より厚みがあります。
この厚みがある分だけ盤に生じる歪みは軽減されやすく、針がしっかりと音を拾えます。
加えて、重い分だけ盤の回転が安定するので、ピッチの揺らぎも抑制。
再生もまた盤石なものになるのですね。

オーディオファイル、つまり高音質盤を謳うレコードが往々にして重量盤なのはこのような理由からなのです。