レコードの種類はいくつある?

レコード初期の歴史

最初のレコードがSPということですが、ではその誕生はどういったものだったのでしょうか。
気になるので少しだけ歴史を紐解いてみます。

(レコードの種類を見ていくという本筋から一度脱線&長文が始まりますので、次のLPの項までスキップしたい方はこちらをクリックしてくださいね。)




はじめに、蓄音機を発明したのはエジソン、という豆知識は多くの方が知るところでしょう。
正確には、少なくとも1857年の時点で、とあるフランスの技師がフォノトグラフという録音機を特許申請しているように、
先駆者は複数名いたものの、実用化へと繋げたのがエジソンだったのでした。

エジソンの作り出した装置。
鍮でできたシリンダーに溝の切られた錫(スズ)の箔を巻きつけ、
雲母製の振動板を併せて録音および再生を行うもの。
1877年に制作されたこの蓄音機=フォノグラフこそ、レコードプレーヤーの最初の原型でした。

(この時、日本は明治時代。蓄音機発明のニュースは届いており、フォノグラフのことを”蘇言機”や”蘇音機”、”写話器械”のように四苦八苦の末の色々な訳がされていたようです。)

シリンダーがうんぬん、と説明されてもぴんと来ないかも知れませんが、
オルゴールを想像して頂ければわかりやすいかなと思います。
つまり、水平方向に倒された円筒=レコードがぐるぐる回転し、
針が円筒に掘られた溝に沿って振動する、という仕組みです。

この蓄音機を商品化すべく、有名なエジソン・フォノグラフ社の前身企業が設立。
ところが、いざ量産体制の段階へと入ると苦戦状態に陥りました。
数百台は生産されたものの実用性には事欠いており改善が望ましい。
なのに当のエジソンは白熱電球の研究へと関心が移っており、そのまま放置という…。

この膠着状態を打破すべく訪れたのが(電話の発明で有名なあの)ベル研究所のメンバー。
彼らは新たなアイデアを携えて事業提携を持ち掛けたのですが、エジソンは歯牙にもかけず。
ならばとベル側で自ら事業を起こすと、今度はそれに刺激を受けたエジソンが(ここにきて!?)改良に取り掛かって…。

という歴史があったようですが、ここでは割愛します。

この改良合戦の結果、エジソン・フォノグラフ社は鍮ではなく、
蝋/セルロイド製の円筒を採用するようになります。
そしてここがフォノグラフ社の限界であり、運命の分水嶺でもあったのです。

というのも、フォノグラフに端を発するこの方式、針が縦方向の振動を拾うものだったからです。
この点こそが後々のレコードとの決定的な違い。
素材こそ改良は加えられましたが、縦振動型シリンダー・レコードという
そもそもの設計思想から抜け出せなかったのが致命的でした。

決定打を放ったのがドイツ移民のアメリカ人、エミール・ベルリナーという人物。
最初のフォノグラフ発表以降、世界各地でも蓄音機と録音媒体の開発が進められていたのですが、
この人物の発想力が抜きんでていました。

彼はまず、針の拾う振動方向を横に出来ないかと思案。
シリンダーの向きを変えての実験の結果、その試みははたして成功します。

横振動でも音を拾える…。
ならば溝を刻むものはシリンダーでなくてもいいのではないか?
この着想こそが円筒状から円盤状へ、というコペルニクス的転回だったのでした。

亜鉛で出来た円盤に蜜蝋を塗り、その上に針で音を刻む。
そこに酸を注ぐと、刻まれた箇所は蜜蝋が削れているので亜鉛円盤に酸が到達。
腐食を起こして溝が完成する。
…そうです、銅版画などで利用されているエッチングの原理です。

こうして音の記録された亜鉛円盤から、凹凸の反転したネガを作成すれば、
そのネガを素材であるシェラックに押し当てることで何枚でも同じ亜鉛円盤の複製=レコードが製造できる。
今のプレス工場でも行われている方法論に辿り着いたのですね。

エジソンのシリンダー・レコード型のフォノグラフに対して、
ベルリナーの円盤レコード型のプレーヤーはグラモフォンと命名、特許申請されました。
1887年、フォノグラフの誕生から10年後のことです。

まもなくしてドイツのベルリンで両者の公開比較実験が行われたところ、
グラモフォンの方がレコードもプレーヤーもローコストで多くの数を生産可能であり、
音の再生自体も忠実性と安定性があると判定されたのでした。
(それでもフォノグラフと違ってグラモフォンではレコードの録音は行えません。
ゆえに一種のポータブル・レコーダーとしてフォノグラフはその後も重宝されたようです。)

かくして最初の円盤型レコードであるSPが誕生。
この後の数十年に渡って世界中に普及したSPは、

●片面録音から両面録音ができるようになった
●録音技術の面での革命(アコースティック録音→電気録音)
●原盤の素材にアセテートが導入されてクリアな音質が実現(ラッカーマスター方式)

といったように様々な改良が加えられ、レコード技術の基本が培われていったのですが…。
説明は次章へ持ち込みますが、LPの登場によって隆盛に一つの幕を閉じたのでした。

とはいえ、レコードの製造自体はなくとも、SPはもう聴くことのできないメディアではありません。
現在でも78回転対応のプレーヤーはオーディオテクニカをはじめとする企業から発売されています。
(もちろん、無理のない再生のために78回転専用針は欠かせません。)