レコードの種類はいくつある?
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SP
現代において「レコード」という言葉を使うとき、それが指し示すのはまず「LP」。
次いで「7inch」「12inch」…という順番かと思います。
その流れで一番最後に来るのは「SP盤」(以下、SP)ではないでしょうか。
今はレコード界の末席に在って単語の響きを聞いたことさえない、
という方も少なくないことしょう。
しかし、レコード誕生の最初の季節において、レコードとはSPのことでした。
当店で買取・販売といった取り扱いもなく、
紹介する優先度的に最後に回そうかとも考えたのですが、
LPや10inchなどを説明する際に重要な役割を果たすので、
本コラムでは敢えて最初に取り上げたいと思います。
SPのサイズや特徴

一番最初に誕生したレコード、SP盤。
昔の映画に出てくる、蓄音機で音を出すあのレコード。
SPとはスタンダード・プレイ(standard play)の略語である、というのが通説です。
そう、あくまで通説。
というのも、海外では呼び方が違ったり、
日本国内でもstandard playという表記が公式として見つかっていないからです。
基本的なサイズは外周の直径が10インチ、つまり25cmほど。
もしくは12インチ=30cmほどの場合もあり、
ジャズの有名レーベルであるブルーノートはこちらの規格を採用していました。
とは言ってもレコード黎明期のSP。
まだ厳密な規格が存在した訳ではなく、盤によってばらつきもあるようです[注1]。
レコードの素材も今とは違って、カイガラムシ(虫です)の分泌物を精製して得られる、
シェラックと呼ばれる樹脂状の物質が用いられていました。
より正確には、酸化アルミニウムや硫酸バリウムなどの微粉末をシェラックで固めた混合物、です。

このシェラック、実はとっても脆いもの。
構成する粒子が粗く密度が疎なので、上の写真のように簡単に割れてしまいます。
落としたり物を上に置くなんてもってのほか。
再生する際の針でさえ恐る恐る落とすべきレベルで、扱いは非常に丁寧でなければなりませんでした。
(そこまで繊細に取り扱っていても、天然素材の有機物であるがゆえにカビが発生しやすいというリスクも…。)
盤面に溝を掘って針を滑らそうものなら、盤にある程度が厚みが必要になるわけです。
厚いということは製造に必要な素材の量が増えることにも繋がり、案の定ですが重いです。
しかも再生用の針は太い(当時は鉄製)=盤面の溝も太いので、
音質は悪く録音できる尺はせいぜい片面につき一曲。
10インチなら3分ほどの再生時間だったようです。
”ちょっと待って。溝が太いにしても、その録音時間はいくら何でも短すぎでは?”
…と違和感を感じた方は鋭いです。
それに因んで、SPの回転数について触れましょう。

種類にかかわらず、レコードという録音媒体は
「盤が一分間に何周分回転するのか」
を基準にカッティングされます。
カッティングというのはレコードに溝を入れて製造される過程のことですね。
したがって再生する際の回転速度はあらかじめ決まっているわけです。
この回転速度のことを回転数と呼びます。
回転数は33回転と45回転の2パターンが一般的で、
市販のレコードプレイヤーも大抵はその前提で設計されています。
がしかし、SPに限っては例外で、その回転数は78回転。
一分間に78周するということですから、33回転や45回転と比べると随分速いです。
(この速度の摩擦に耐えられるのはSPだけ。もしも現在のレコードを再生しようものなら”やられ”ます。)
録音時間がやけに短かったのはこういう理由だったのですね。
また、このことから海外ではSPという名称ではなく、
Shellacまたは78rpm disc(rpm:revolutions per minuteの略)、
すなわち78回転盤[注2]と呼ばれています。
ただ、SPのサイズに厳密な規格がなかったのと同様、1940年代に規格統一が実施されるまでは、
80回転のものもあれば76回転のものもあるといった具合で、
回転数も若干のバラつきがあったそうです。
(録音時間を長くするために回転数を落とす、といった意図もあった模様。)
[注1]SPのサイズにばらつきがあったということですが、一体どれくらいのレベルだったのか。
実物を見たわけではありませんが、オンラインで確認できた情報によると、
映画や放送に使用される直径16インチ(約40cm)の業務用から、
4~9インチサイズの市販されたものに、
おやつのクラッカーほどの2インチ(約5cm)大のボイスメモ用まで存在するとのこと。
また、北海道の新冠町(にいかっぷちょう)にある施設「レ・コード館」には
業務用を上回る20インチ大のSPが展示されているそうです。
[注2] 映画好きで78回転盤という単語にピンときた方へ。
そうです、「ゴーストワールド」(2001)でスティーヴ・ブシェミ演じる中年男性が蒐集していたレコードがブルースの78回転盤でした。
主人公の少女が雑に扱っているのを冷や冷やしながら見守っていたのは、
レア盤という以上にSPが割れやすいものだったからなのでしょう。