【本日のおすすめ】 Oneohtrix Point Nevet / R Plus Seven (2013)

【本日のおすすめ】
Oneohtrix Point Nevet / R Plus Seven (2013)

この作品、というかこのアーティストについて語るには、ここはあまりに紙幅が少ない。が、試しに始めてみよう。

10年代以降のエクスペリメンタル~アンダーグランド音楽における、絶対不変のターニング・ポイント。突如聳え立ったソニック・モノリスは、ポスト・インターネット・ミュージックと呼ぶべき音楽の作家たちに汲みつくせぬほどの啓示を与えたに違いない。

本名:ダニエル・ロパティン。通称:OPN。歯医者の待合室でドリル音に混じって流れてきたソフトロック……そのAMラジオ局番=106.7(one -o-six point seven)をもじったアーティスト名が既にして示唆的だ。つまり、体験/記憶と不可分に結びつき、強調され、形質が変容する音響。表層だけなぞればミニマル・ミュージックやアンビエント・テクノと受け取れるだろう。しかし本質は全く異なるもので、体験/記憶そのものを音楽上で加工可能な素材として強制的に扱ってしまうという、真にデジタル・ネイティブゆえの融通無碍な創造性……ソフトウェアが内包している”互換性”を通じて仮想の視聴覚(ときにハプティックにも裏返る)空間を自由に往来する発想が”身体”に備わっている世代の、好奇心を擽ってやまないのがOPNの音楽なのだから。

こうした手つきで、世間一般で見れば打ち捨てられた(obsoleteな)ような扱いをされていた、ニューエイジやオブスキュアなプログレ、フュージョン、メタル……といった要素を、純粋な嗜好性と相対化ゲームのオブセッションという批評性を振るい、攪拌し彫刻する(ここでいう彫刻は文字通りの意味で、ダニエルとは本作のPVや次作で組むネイト・ボイスがポスト・インターネット時代の彫刻家であることは見逃せない)。

オンラインにおけるネオ・マテリアリズム(ハイパーポップにおける最重要人物の一人であるSOPHIEとはこの点で同根である)。この音の彫刻は、資本主義の写像をそのままに、金属にも気体にも液状にも光にもなってみせる。静と動との均衡は、画面越しの醒めたメタ視点と、TVゲームでの感覚ジャックによる没入感およびトランスの併走同様に達成される。排反するように思えた何かと何かは、別の俎上へ転送されることで調停され、オブジェとして顕現する。

出たばかりの新作「Tranquilizer」で興奮した人も、今一度この謎に満ちた(そして極めて予見的でもあった。何を予見していたのかを語るには、やはり紙幅は足りないのである)サウンド・オブジェのギャラリーを再訪してはどうだろうか。

(recommendation & text by A.K.)