【本日のおすすめ】Maroon 5 / Overexposed (2012)

【本日のおすすめ】
Maroon 5 / Overexposed (2012)

スタジアムアクトとして巨大化(あるいは肥大化)し、(ライブは別にして)バンドサウンド自体からも時には離れ、時代の寵児たるポップスターを積極的に呼んでフィーチャリングする。ブラックミュージックへの憧れという一点は最初からブレずにいるものの、(実験ではなく迎合のスタンスを採用する形で)メインストリームに乗る姿に、ロックファンからは眉を顰められたり、時に軽んじられたりもする。海外のオタクの間ではCo-worker Music(=仕事場の同僚が聴いている音楽)という言葉を交えて揶揄されることも……。

わかるよ、まあ。でも、実のところ嫌いじゃないんだ。

今年に入ってマルーン5にじっくり向き合っている身として言わせてもらえば、良い曲結構あるのです。
1stは別格だし名盤として。じゃあ次に選ぶならどのアルバムだろうか?と考えると、ヒットシングルのいっぱい入っている「V」……いや、チル気味の10年代型R&Bで軽く流せる「Red Pill Blues」も悪くはない……順当にブラコンの要素もある2nd「It Won’t Be Soon Before Long」とか?……。
ま、選択肢はあるけど、自分なら「Overexposed」にするな。

ええ、バンドであることに拘らなくなったあの「Overexposed」です。
いわばマルーン5=セルアウト・アクトのイメージを決定付けたアルバム。
大部分を外部のソングライターに任せるという、ビートルズ以降の自作自演のバンド美学に反する方向性はしかし、3rdでスランプ状態だった彼らにとって切実な打開策だったのでしょう。

レゲエの雰囲気がある曲、カントリー感のある曲……フロントマンのアダムが”最も多様性があり、ポップなアルバム”と語る通り、曲想はバラエティ豊か。それは舵を切ったことで見ることのできた地平でもあります。

まあでも、何といっても一撃必殺の『Payphone』収録。これが大きい。
どんな曲だっけ?という人もサビを聴けば即、あの曲か~!となるはず。それくらい巷で流れていたヒットソング。つまりはさんざん耳にしているはずなのだけど、今改めて聴いてみると……うーん、良い!こんな良い曲だっけ。アップリフティングなトラックの中で輝く切ないメロディ。当時距離を取っていたはずのEDM、の全盛期を思い出しもするし、それがすでに強烈なノスタルジーとなって混ざっているような。13年の歳月を経て、自分の中で相対化されたのでしょうね。今ならエクスキューズなしで言える。名曲です。

そう、あの時代の感じがする、というのも時間経過で新たに備わった本作の魅力だと思うのです。
シングルカットされた『One More Night』の軽快さ、Foster The PeopleとかTwo Door Cinema Clubみたいなあの頃流行った高速4つ内『Lucky Strike』、クラブチックなプロダクションの『Fortune Teller』。チャラい。でもそのチャラさが最早今では懐かしい。人間ってなんなんだろう。

『Payphone』以外の個人的ハイライトは、バンドメンバーだけで制作した『Ladykiller』。この中だと圧倒的に地味だけど、淡々と忍び寄るようなサウンドが緊迫感を演出していて好(ハオ)。そしてラストの『Beautiful Goodbye』。ほんのりレゲエ味の差し込まれたサンセット・レイドバック・ポップ。最近Aqua Timezの人が作った新曲を聴いたんですが、そちらと曲調が近くって。平成。あの頃のJ-POPってこういう曲調あったよな~高校生のときは何とも思わなかったけど、今は本当しっくり来る。染みる。カーステで本作を流していると、ついついこの曲だけリピート……。

マルーン5、一度試してみようかなという人。
そして、ここにきて”平成”にノスタルジーを感じ、どうしようもなく引力を感じてしまう人に。

(recommendation & text by A.K.)