【本日のオススメ】PRINCE/HITNRUN Phase Two(2015)

2015年の12月12日にストリーミングサービスのTIDAL限定、告知もなく突如デジタル配信された本作。
Prince初心者の方に大変とっつきやすい、かつ超絶素晴らしい内容にも関わらずまだまだ知名度の低い本作、眼の前にあるのに推薦しないなんてできるわけもなく…。

前作｢HITnRUN Phase One｣からたった3ヶ月後だったこともありかなり興奮した一方で｢またTIDALかぁ…😔聴けないじゃん..｣としょんぼりでした。
※TIDALは日本でのサービス提供をしておらんのです😔VPN繋げば使えるけどそこまでしなくても…ねぇ。

｢HITnRUN Phase One｣はTIDAL公開後すぐにCDリリースされたので今回もそうなると思って楽しみに待っていましたが、CDも発売されていない2016年4月21日に亡くなってしまうとは。

寂しい気持ちがまだまだ残る2016年5月、手にしたCDがこの｢HITnRUN Phase Two｣。

殿下は過去曲をストックしておき良きタイミングでリリースするという事をよくやるお方で、本作もそのタイプのアルバムです。
完全な新曲は少なく、何年も前にライブで披露済みだったりラジオで公開していたりする曲をアルバムカラーに合わせリメイクを施して上手にまとめてあります。

前作まではエレクトロニックなダンス・ミュージックに寄っていたのにここへ来てクラシックなプリンスサウンド。
紛れもないソウル、ファンク、R&B。

新しいことに挑戦するプリンスも好きだけど本作は「むぉぉ…もどってきた!!EDMの国から殿下が帰ってきたあ!!(CV:森繁久彌)」っていうね、大満足な内容でして。
ファンの期待どおりの方向に舵取りをした結果ファンの想像を遥かに上回り驚かせてしまうというなんとも殿下らしい….。

全曲素晴らしいのですがこの調子だと数日かかっちゃいそうなので、断腸の思いで２曲だけご紹介。

やはりオープニング・ナンバーの「Baltimore」。
2015年4月12日にメリーランド州ボルチモアで、25歳のフレディ・グレイさんという黒人男性が亡くなった事件を受け作曲、録音、5月9日にSoundCloud上で公開されました。
｢戦争が起きてない＝平和ってことじゃないよね」「人々が泣いたり、死んでゆくのはもう見たくない」という悲痛なメッセージを乗せる曲は雨上がりの爽やかな朝を思わせるようなアップテンポ&メジャー調、力強いホーンと美しいストリングスが絡み合う見事なアレンジ。
「今こそ愛し合う時だよ、みんなこのギターに耳を傾てみて！」と歌ったあとのギターソロ。

この曲を聴くとあの事件、その後に起こった(現在進行中のことも含む)世界中の痛ましい出来事や2020年にミネアポリスでまたもや起きてしまったジョージ・フロイドさんの事件など、まだまだプリンスの力が必要だったのにと残念な気持ちとともに、「まだまだぼくたち頑張れます、こっちはこっちでなんとかします！」と伝えたくなる。

歌詞の説得力を支える演奏はどの楽器パートも信じられないほど素晴らしく、編曲にも惚れ惚れ。
切れ味と温もりが同居するミックスも完璧。
殿下最高傑作のひとつ。

そして2曲目はエンディングの「Big City」。
明るさの中に悲痛な心情が見え隠れする「Baltimore」の対となる曲。
年季の入ったファンクグルーヴにキレッキレのホーンセクションが華やか。
ビッグバンド時代のジャズからスライ・ストーン、P-Funk、EWFやスティーヴィー・ワンダーといった先達へのリスペクトを散りばめつつもプリンスらしい飛び抜けたポップセンスがキラリどころかビッカビカに光輝くマスターピース。
｢1999」や「Let’s Go Crazy」に連なる、とにかく明るいプリンス印のパーティーチューンですが年齢を重ねた分テンポ落とし気味の円熟味マシマシ。

仕事帰りの繁華街で聴いていると都市の喧騒とエネルギー、多様性を受け入れる包容力、出自を異にする人々の中で自分もパワフルな街の一部になったような気がして。一駅余計に歩いちゃおっかな！ってなってしまいます。

曲の締めくくりのセリフ、「That’s it！（おしまい！)」を寂しく感じた時はプリンスたくさん聴くし、明るく聞こえたらまたね👋って元気に頑張るだけです。

でもでも殿下聞いて、私は本作の次、そのまた次もそのまたまた次も聴きたかったです。

まだまだ創りたかったよね。ね、殿下。(岩井）