再熱する8cm CD(短冊CD)の世界 プレミア盤の傾向と実例を一覧でご紹介
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プレミア短冊CD 高額になる作品の傾向①
ここまで8cmCDを取り巻く状況が好転し始めていることについて触れました。
とは言え、あらゆるものが価値上昇しているのかというと、そういう訳でもありません。
大半のタイトルは今なお中古ショップの廉価コーナーへ振り分けられていますし、実際その相場で留まっています。
それでは一体、どういった作品が人気があるのでしょうか。
本章では市場で高額取引のなされやすい傾向にあるものを、実際のタイトルを例示しながらご紹介したいと思います。
有名アーティストの再評価された作品
有名アーティストの作品というと市場に出回った枚数がとても多いので入手しやすく、プレミアが付いているというイメージはピンと来ないと思います。
しかし、一部のものについては必ずしも入手が容易とは限りません。
インディーズの頃の音源ではない、メジャーレーベルからの作品であったとしても、後年再評価が著しいタイトルは、レコードもCDも問わず、廃盤であれば高騰するのがセオリーです。
例:エレファントカシマシ / 浮雲男 (1989)

紅白歌合戦にも出場しているエレファントカシマシは有名なバンドですが、カルト的な人気からプレミアが付いている作品があります。
それが1989年の3rdアルバム「浮世の夢」なのですが、収録されている『浮雲男』『GT』の2曲をカップリングしたこちらの8cmCDもまた、いやあるいはアルバム以上に入手が困難なのかも知れません。
オンラインのオークション・サイトでは「浮世の夢」の数倍の価格で落札されたこともあるようです。
フロアユース
DJをする人たちの間ではクラブのオーディエンスを沸かすべく踊りやすくキャッチ―な、いわゆるフロアユース(クラブで実用的・機能的の意)が好まれます。
かつ、レコードであれば目当ての曲をすぐに流せるような、7inchや12inchといったシングルレコードの人気が高いのですが、これはCDJ(CDによるDJ)においても同様のようです。
また、短冊CDのみという縛りでDJを楽しむイベントもあり、そうした場所で盛り上げてくれるだろうフロア映えする曲の入った作品が争奪戦となるのは必至でしょう。
例:竹内まりや / 夢の続き[’89 Remix] (1989)

近年のシティポップ人気は目を見張るものがあり、TVでも特集が組まれることもあるほど。
そんなブームの火付け役とも言える楽曲が竹内まりやの『プラスティック・ラブ』です。
そして、フューチャー・ファンクと呼ばれる、既存の音楽をサンプリングしてよりダンサブルにエディットした音楽スタイルも10年代に勃興しましたが、その代表曲の元ネタが1987年の『夢の続き』なのでした。
アンセムとも言えるこの2曲を、更にクラブ仕様に再ミックスして収録したのが本CD。
レコードとして再発もされましたが(すでに廃盤)、オリジナルの短冊CDも血眼になって探す人が後を絶ちません。
アルバム未収録曲
シングルを買う意味と言えば、アルバムに未収録の曲があること、というのは多くの方が頷くところでしょう。
なお、通常のアルバムCDと比較すると、シングルCDというのは熱心なコレクションを目指したり思い入れが無い限り手放しやすいものですし、取り扱う中古ショップが少ない(ので廃棄されてしまうことも……)。
あるいは店頭に並んでも背部分が薄いので、目が疲れる上に根気が試され、探すのが大変です。
そういった意味でも、オンラインで目当ての短冊CDがピンポイントで出品されれば、多少値が張ってでも落手したいと思うのは自然な成り行きです。
例:小沢健二 / ある光 (1997)

テレビ出演も多い人気アーティストの小沢健二ですが、アルバム未収録のシングル曲が多く存在します。
そうした楽曲を集めたのが2003年のコンピレーション「刹那」ですが、そこにも未収録なのが『ある光』です。
音楽配信サービスではこの中の一曲が聴けるようですが、CDで聴くにはこの短冊を入手する必要があるのです。
稀少盤というほどではないにせよ、簡単に見つけられるものでもなく、かつ今も需要があるため、一般的な短冊CDより若干高額で取引されているようです。
シングルのみのアーティスト
そもそもアルバムを出すまでに至っていない、シングルのみ音源を残しているアーティスト。
マニアックでニッチな、見過ごされやすい音楽。
プレス数も少ないので、それが後年になってディガーによって発見~再評価されると、ぐんとプレミアがつく高嶺の花となります。
ネットに情報もない詳細不明のものも多く、そのミステリアスさもまた音楽好きの好奇心をそそり、人気に拍車をかけるのでしょう。
例:小西麻衣子 / Mr. Juggler (1988)

詳細不明のアーティストで、アルバムもなくこのシングル1枚を残して泡沫と消えた80年代の歌手。
シンセサイザーと打ち込みバリバリの、キレのあるポップスです。
ある時点まで、バブル期に特有のいかにもデジタルなサウンドは多くの音楽リスナーの間で”感覚的にナシ”、”ダサい”だったのですが、10年代に入るとそれが相対化され、”むしろアリ”、”クール”へと反転したのでした。
そのことを示すように、日本製のブラック・コンテンポラリー・ミュージックは一部で〈和ブギー〉と呼び習わされ、シティポップ人気と地続きにあるものとして受容、再評価が進みましたが、本作は正にそうした一枚です。
レコード期の名曲再発
多くの8cmCDはその時代の新譜として発売されていますが、時代を遡って往年の名曲が短冊化するパターンもあります。
元々レコードだった過去の音源がCDで再発されることはごく普通のことですが、短冊CDでとなると数は限られます。
決してすべての8cmCD再発にプレミアがついている訳ではありませんが、プレス数の少なさと場合によっては”ある事情”が重なり、価値が高まることがあるのです。
例:荒井由実 / きっと言える (1989)

先述の”ある事情”で非常にプレミア化したのがユーミンの名曲を再発したこちらの一枚。
言わずと知れた1973年発表の1stアルバム「ひこうき雲」に収録、同時期に7inchシングルとしても発売されています。
80年代終盤に、限定盤として販売されたプレス数の少ないものなのですが、実は収録されているカップリング曲の『ひこうき雲』が、オリジナルと異なるミックス、いわゆるAlternative mixなのです。
この別ミックスが聴けるのは、同じタイミングで出た1stアルバムの限定盤CD再発か本8cmのみということで、その需要の高さが推しはかられます。
非売品・プロモオンリー
レコードの世界で高額取引されるものの中に、プロモーション(販促)の用途を意図して製造された非売品というものが存在します。
音楽業界の関係者やUSEN放送といった企業にのみレコード会社が配布したものです。
プロモオンリーの短冊CD自体は、販促に向いたフォーマットということもあり珍しくはありませんが、かと言ってプレス数は一般流通のそれより少なく、特に人気アーティストのものとなるとコレクターズアイテムとしての意義が大きくなり、プレミア化する傾向にあります。
例:中森明菜 / AKINA’S MORNING (発売年不明)

80年代後半に発売されたPIONEER社のハイエンドCDコンポ「PIONEER PRIVATE」。その購入特典としてのみ入手できたのがこちらの1枚です。
人気アーティストの中森明菜がキャンペーンガールを務めていたこともあり、ディスクには彼女のモーニングコール風音声が2トラック(それぞれ10~20秒ほど)が録音されています。
他にも2トラックが収録されていますが、そちらはジャズミュージシャンのGeorge Hawardによるフュージョン・インスト(中森明菜楽曲のアレンジではない)なので、これぞ真のコレクターズアイテムといったところでしょうか。
洋楽有名アーティスト(コレクターズアイテムとして)
8cmCDは海外でも販売されていたようなのですが、やはり衰退の一途を辿ったようです。
しかも日本以上に短命だったため、洋楽アーティストがこのフォーマットでリリースしたものは数が限られ、かつ日本でのみ販売されたものがほとんどの様子。
それゆえ、オンラインで情報を探しやすくなった現在、海外のコレクターからも目当てのアーティストの短冊CDをコレクションに加えるべく熱視線が送られています。
最近の当店でも、アジア圏からお越しのお客様がガンズ・アンド・ローゼズの短冊CDをじっくり検盤~購入されたことがありました。
はたまた、オンラインオークションでの凄まじい競り具合を見るにつけ、入手する難易度が高いこと自体もまた彼らの競争心に火をつけているように思えます。
例:ジャクソン5 /小さな経験 (1989)

世界でもコレクターの多い人気アーティストと言えばマイケル・ジャクソン。彼の在籍したジャクソン5も然りで、こちらの短冊CDは1989年発売です。
〈モータウンNo.1ヒット・シングルズ〉というシリーズが銘打たれ、ここから再発されたマイケル・ジャクソン関連のものは総じて高額。
取引価格も他の稀少盤と一線を画すことから、グローバル規模でライバルが多数存在することが再確認できます。
ユーロビート
前述の有名アーティストともまた違うのですが、洋楽の短冊CDで高額のものが目立つのがユーロビートです。
日本ではジュリアナのようなディスコで流れていた、バブル期の音楽という印象がありますが、今なお一定のリスナーを持つ根強い人気のあるジャンルでもあります。
海外コレクターの存在だけでなく、フロアユースを求めるDJからも需要があると考えられ、フロアのボルテージを上げられるキラーチューンはレコードの12inchと同じく高値で売買されやすいです。
例:Sandra / Sisters and Brothers (1988)

80年代にヨーロッパで人気を博したドイツの歌手Sandra Ann Lauer。
1985年の1stアルバムに収録されていた『Sisters and Brothers』と1988年の『Stop For A Minute』の2曲をカップリングした、日本国内オンリーの短冊CDです。
YouTubeに挙がっている『Sisters and Brothers』の楽曲再生回数は144万回(2023年12月時点)で、少なくないファンが支持していることが分かります。
中華文化圏アーティスト
ヨーロッパで火のついたユーロビートが日本でも人気で、かつ日本でのみ発売された8cmCDの需要が高い…という構図に似たパターンとして、アジア圏、とりわけ香港や台湾といった中華文化圏出身アーティストが挙げられます。
例えば、テレビでもしばしばスポットライトの当てられる、若者の間の昭和歌謡リバイバル。その中でもテレサ・テン(鄧麗君)の支持は頭一つ抜けており、特に80年代後半のCDやレコ―ドは高額の傾向にあります。
あるいは、シティポップ~ライトメロウの視点から再評価されるシャーリー・クァン(關淑怡)も同様。
こうしたアーティストは日本だけでなく、東アジア~東南アジアの音楽好きからのラブコールもしばしばで、前述のマイケル・ジャクソンの規模とまではいかないものの、コレクターの総数は多いと言えそうです。
例:BEYOND / くちびるを奪いたい (1993)

香港出身のロックバンドBEYONDは80年代後半から90年代前半にかけて台湾、マレーシア、シンガポール、中国、そして日本で精力的に活動し、各国にファンベースを築きました。
日本語バージョンで楽曲を歌った短冊CDがファンハウスから数枚リリースされているのですが、そのいずれもが高値をキープ。
恐らく上記の地域のファンからの需要があるためだと思われます。
テレビ番組関連
短冊CD全盛期の90年代、それはテレビの勢いのあった頃でもあり、番組の主題歌やCMソングが多数8cmCDで流通したのでした。
アーティストのタイアップや、番組企画発のユニットやプロジェクトの中でも大ヒットしたものであればアルバムに収録される機会もあります。
がしかし、1、2曲ほど発表した限りであれば話は別で、残した音源がシングルのみの場合も多いにあるのです。番組主題歌・挿入歌のコンピレーションの需要があるのもそうした事情からなのでしょう。
例:グッチ裕三 & グッチーズ/ ハッチポッチファミリー (1997)

平成前半に子供時代を過ごした人なら一度は目にしたであろう、NHK教育テレビの番組「ハッチポッチステーション」。グッチ裕三とパペットが時に音楽ネタも交えながら届けるコント風の子供番組で、OPで流れる主題歌は記憶に残りやすいメロディで今でも思い出せる人も多いのではないでしょうか。
番組で使用された曲を集めたアルバムもあるようですが、そちらも中古品としてはある程度の価格で取引されやすい様子(短冊に限らず、NHK教育テレビ関連のCDはプレミアが付いているものが散見されます)。
なお、ある程度時間の経った今聴き返すと、リズムトラックは完全にニュージャックスイングで、これをクラブで流せば観客は懐かしさと踊りやすさで盛り上がるキラーチューンになることだろう……とDJならば考えるところで、フロアユースの側面も高値の一因なのかも知れません。
アニメ主題歌
テレビから流れていた音楽の8cmCDで、もう一つ触れなければならないのがアニメ番組主題歌。
こちらも高値のタイトルが多く存在します。
一定の価格が付くことに関して、例えばジャケットにアニメイラストが使用されている、アニメファンがコレクションする、といった理由も考えられるのですが、個人的に思い当たるのはアニクラでのプレイです。
アニクラとはアニメソングのみをかけるイベント=アニソン・クラブの略称で、そこでは音源データやCDがプレイされやすい…つまり、フロアユースの側面から需要があるのでないかと。
とは言え、ここでいうクラブ・ユースとは前述までの踊りやすい・ノれるだけでなく、アニメを視聴していたときの感情を呼び起こすような、というアニクラ特有の盛り上がり方も含まれます。
例:永井ルイ / Big-O! (1999)

2000年前後に放送されていたロボットアニメ「THE ビッグオー」の最初のOP曲。
このCDについては、クラブ・ユース云々というよりも特殊な事情があって高値になっています。
というのもこの曲、メロディにせよアレンジにせよ、クイーンの楽曲『フラッシュのテーマ』ほぼそのままなのです。
元々『フラッシュのテーマ』に近い音楽をとアニメ制作側から注文があり、それに作曲者が存分に応えたがゆえ、クイーン側と協議して楽曲権利が移行したという顛末。
その後OPの曲は別のものに差し替えされ、この8cmCDは発売当初出回ったきりお蔵入りに。
結果的に稀少盤となったのでした。