再熱する8cm CD(短冊CD)の世界 プレミア盤の傾向と実例を一覧でご紹介

はじめに

当店ではレコードからMD(ミニディスク)に至るまで、さまざまな音楽ソフトを取り扱っていますが、ここ最近レジを通すことが多くなったな、と感じるものがあります。

それは、8cmCD。
短冊CDと通称される薄くて縦長長方形のパッケージです。

人気のメディア(録音媒体)について言うなら、レコードのブームはいざ知らず。
カセットテープも10年代以降にじわじわと人気が上がってきましたが、とうとう8cmCDも再熱を帯び始めてきたのでは?という肌感覚が、中古レコードショップで働き、オンラインで音楽関連の流れをウォッチする人間として、確かにあるのです。

本コラムでは、そんな再評価の機運が高まりつつある8cmCDというメディアに纏わるエトセトラや、いったいどのような種類の作品が市場では高額になりやすいのか、その傾向についても具体的なジャンルやタイトルを交えてご紹介したいと思います。

8cm CD(短冊CD)とは何か

発売の経緯    

なぜ8cmという規格なのか

通常のCDの大きさは直径が12cmなのに対して、短冊CDの直径は8cmです。
この8cmという規格は一体どういった由来なのでしょうか。
それについてはっきりさせるため、まずはCDビデオ(以下、CDV)という規格について軽く触れたいと思います。

CDVはその名前の通り、ディスク一枚の内にCD部分とビデオ部分を併せ持つ特殊な規格です。
発表は1987年。盤面は通常のCDと区別するため金色光沢の仕様となっており、ディスクの内側がデジタル音声記録部分、その外周がアナログ映像記録部分(容量は5分)、といった割り振りがなされていました。
この内側の直径こそが8cmだったのです。

しかし3年後の1990年、一枚のうちに視聴覚を記録したCDVは、CD部分とビデオ部分とにそれぞれ分けた、CDシングルとビデオシングルディスク(VSD)という規格へ独立することにより消え去る運命を辿ったのでした。
結果、元々のCD部分の大きさがそのままCDシングルへと引き継がれる形になり、8cmCDへと落ち着いたということです。

最初の短冊CD   

日本レコード協会が発表している〈オーディオレコード 種類別新譜数の推移〉によれば、日本国内で短冊CDが発売された最初の年は1988年です。
さらに言えば、その年の2月21日(日)が初登場のタイミングだったとのこと(※以下、CDのタイトル数について言及がある場合はこちらを参照しています)。

1988年2月21日。その日発売されたタイトル=最初の短冊CDは、こちらの興味深い記事(ブログ『失われたメディア-8cmCDシングルの世界-』)によれば少なくとも68枚あるようです。
再発も新譜も綯交ぜで、邦楽の数が圧倒的に多い様子。

情報をピックアップしてみると、菊池桃子や杉山清貴などオメガトライブ関連や、ブルーハーツが前年発表の『リンダリンダ』に『キスしてほしい』、洋楽だとNew Order『Touched by the Hand of God』にPublic Image Ltd.『The Body』と、やはり前年発表された楽曲が。
レーベル別だと断トツでタイトル数が多いのが※VAPで、近い年月に発表された人気曲が再発されていたようです。

※1/7修正:誤った記載があったため修正しました。
×アルファレコード→○VAP
謹んで訂正いたします。 

折り畳みについて

短冊CDの特徴の一つに、折り畳める仕様というものがあります。

縦の長さが17cm弱の長方形のフォルムは、もしかしたらスマートフォンの普及した今こそ手にもって馴染みやすいかも知れません。
しかし発売当初、そのサイズ感に買った人が違和感を感じると企業側は考えたのでしょうか。
“さらにコンパクトに”を合言葉に、半分に折りたたんで正方形に出来ますとの謳いがあり、ものによってはジャケット内側に折りたたみ方の説明まで記載されています。

プラスチックのトレイ部分、その下半分は十字の格子状になっていて、ぱきんと折ることができます。
あるいは、ジャケットをハサミで切り取ることを暗に推奨している場合も。
実際に中古でも折りたたまれたCDを見る機会は少なからずで、サイズは小さいほど良いという美学が時代の空気としてあったのかな、と推し測ります。

短冊CDを再生・保管するには   

CDシングルアダプター

通常のCDは直径12cmで、短冊CDは8cm。
この寸足らぬことが思いのほか厄介だったりします。
というのも、多くのCDプレイヤーは12cm大の規格に合わせて再生するよう設計されているからです。
場合によっては、トレイに入れたが最後、取り出し不能となって泣きを見るというパターンも。
残り4cmを補いさえすれば適切に読み込み・再生できるのに…。
そこで必須となるのが、CDシングルアダプターというアクセサリーです。

使い方は8cmCDをリング状のアダプターの中心に嵌め込むだけ。
アダプター自体は薄いプラスチック製なので、そこまで繊細ではないとはいえ割れないよう扱う必要があります。

なお、短冊CDの発売は2005年以降ごくごくわずかとなりますが(タイトル数が10未満)、現在でもアダプターは様々なプラットフォームで販売されており、中古でなく新品で容易に入手することができます。
製造元はSONYやNAGAOKAといったオーディオ・メーカーが目立ちますが、近年ではタワーレコードやディスクユニオンのような大手音楽メディア販売店でもオリジナル・ブランドのものを取り扱っています。

外ケース

短冊CDの厚さは4mmという薄さ。
加えて長方形という形状は支点・力点・作用点で油断すれば簡単に折れてしまいます。
この繊細なパッケージを安心して保管することが出来るよう販売されたのが8cmCDケースです。

ジャケットを鑑賞できる透明なプラスチック製のケースで、短冊CDのパッケージを嵌め込めるよう一回り大きなサイズ。
ディスクを取り出せるよう上下に開閉できる造りになっています。
上の写真は縁の部分がピンク色ですが、お気に入りの色の枠(サイドカラーモール)で囲えるよう、発売メーカーによってはカラーバリエーションも展開されていました。
枠だけではなく、ケース本体も通常の透明なもの以外に、スモークグレーやスモークブラウンのようなカラーケースも存在します。

短冊CDを盤石に保管したい人にとっては重宝するだろうアクセサリーなのですが、現在新品で販売されていないため、中古や未開封品でしかお目にかかれない模様。

それにしても、こうしたカスタム感覚や実際に嵌めて手に持ったときの存在感から、スマホケースの先駆けのようにも思えてきます…。

外袋

レコード同様、短冊CDのジャケットもそのままだと紙部分が露出し、擦れてしまうことも日常茶飯事。
8cmCDケースは新品で購入できないのが現状なので、丁寧に扱いたいコレクターが頼ることになるのがビニール製の外袋です。

上の口が開いているのり無しのものと、のり部分が付いていて上が閉じられるものの2種類があり、いずれも現在各所で取り扱いがあります。
当店でものり付き外袋を取り扱っておりますが(1枚あたり6円)、ここ最近まとめて購入されるお客様も現れ始め、短冊CD再燃の機運を感じました。

現在の短冊CDの評価

CD再評価の兆し

音楽配信サービスの普及とレコード文化の再興が著しい近年において、CDというメディアの需要は落ち込むことになりました。
そもそもCDプレーヤーそのものを持っていないという若い音楽好きも少なくない状況。
CDで発売されたタイトル数も、1989年以降は1万以上だったのが2017年に9千台となり、最新の2023年時点では6千台へと減少しています。

但しその一方で、CD再評価の兆しも随所に見受けられるのも事実です。
いわゆる名盤はレコードブームに伴い多くの人が探すことになり、中古市場の価格が底上げ。
新品のレコードも不安定な世界情勢と物価上昇によって、例えば数年前なら2000円台くらいだったはずが、現在は4000円以上が当たり前になりつつあります。
それでも、CDであればまだ手が出せる。特に中古CDは安価で名盤が手に入りやすく、かつ音楽配信サービスで未配信のタイトルもあるため、掘る楽しみが多く残されているのです。


Z世代の中には敢えてCDを買うリスナーも現れ、〈平成レトロ〉というキーワードも散見されるようになった令和。
あるいは、80年代の昭和歌謡や平成初期のJ-POPが、時間を経て新鮮に響くようになったということもあるかも知れません。
CDへ愛着を持つリスナーが旧来・新規問わず存在し、その流れで短冊CDにも手を出す人もいそうです。

人気ロックバンドのサカナクションが、オメガトライブをオマージュしつつ2019年に『忘れられないの/モス』という楽曲を短冊CDのフォーマットで発売しましたが、そのことは正に再燃=リバイバルの兆しを捉えたのではとも思えます。

短冊CDの日

そして短冊CD誕生から35年目の2023年、音楽業界で「短冊CDの日」という企画が立ち上げられました。
もともと「レコードの日」という、アナログレコードの魅力を伝えるイベントが毎年11月3日に開催されていますが、その8cmCD版と言えるもの。

短冊繋がりで七夕の7月7日に開催。
名曲の再発だけでなく近年のアーティストによる楽曲も8cmCDのフォーマットでリリース。
この企画の呼びかけに多くのアーティストが賛同し、初回は61タイトルが無事に発売されました。

短冊CD再評価の空気を感じ取った人々がいたからこそのイベント。
来年以降も続いていくでしょうし、本格的な再燃への起爆剤となり得るか否か…その動向が注目されるところです。